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インドダイジョウブッキョウノキョゾウトダンペン

インド大乗仏教の虚像と断片

発売日 2022/12/16

判型 菊判   ISBN 978-4-336-07338-9

ページ数 460 頁   Cコード 3015

定価 13,200円 (本体価格12,000円)

内容紹介

この四半世紀でもっとも影響力のある仏教学者と評されるグレゴリー・ショーペン。彼の手にかかると、経典の何気ない一節が、ありふれた寄進碑銘が、ほとんど注目されない仏典が、新たな相貌を見せ始め、インド仏教の生きた世界を語りだす。
【虚像】では、初・中期大乗の一般的な展開を検討する。
第1章では、中国で主流となった大乗が、インド仏教中期では周辺的な少数派であったことを例証する。
第2章では、『金剛般若』の成句「その地点は塔廟となるであろう」を取り上げて、経典研究における複数文献との比較の必要性を例証し、大乗が仏舎利崇拝を批判し経巻崇拝へ向かったことを示す。
第3章では、『摩訶迦葉会』の出家者の仏舎利供養批判を検討し、初期大乗が、部派の経律を偏狭かつ伝統的に解釈し、瞑想と読誦を比丘の仕事として森林修行への回帰を説く、保守的な運動であったことを明らかにする。
第4章では、初期大乗は仏舎利崇拝に無関心であり、部派の新要素「出家者の仏像崇拝」を批判する『摩訶迦葉会』最終章を検討することで、保守な教団改革を目指していたと指摘する。
第5章では、極楽往生が阿弥陀崇拝から切り離されて信者ならだれでも可能な恩恵となり、極楽世界が標準的な文学的直喩となったことを明らかにする。
第6章では、宿命智が、阿羅漢や仏だけが獲得できる法数の1項目から独立して一般的な恩恵となり、個人の行動を改善して悪趣への再生を防ぐ解決策となったことを明らかにする。
【断片】では、碑銘・考古学・美術の史料を検討して、インド仏教の生きた世界の一端を紡ぎだす。
第7章では、寄進碑文に見られる大乗共通の定型句を検討し、4世紀には釈迦の比丘/勝優婆塞を名乗る者たちが現れ、6世紀初頭には大乗の信奉者という名称が加わり、10世紀までには碑文と写本奥書に両名称を併記することが標準となったことを明らかにする。
第8章では、阿弥陀仏が表れる最古の碑文を校訂して先行研究の誤りを正し、北インドの碑文を検討することで、大乗と阿弥陀仏の不人気のほどを示す。
第9章では、アジャンター第10窟の小さな壁画を「観自在菩薩普門品」に比定し、同地で『法華経』が知られていたことを裏づける。
第10章では、『普賢行願讃』の1詩節を含む10世紀のナーランダー出土碑文を校訂する。これはインド碑文に現れた唯一の大乗文献であり、10世紀に同地で実際に使われていた証明となる。
第11章では、陀羅尼経典というジャンルを提案して、仏教の実践に顕著な影響を与えていたと指摘する。
第12章では、複数地域から出土した2点の陀羅尼銘文の出典を比定し、陀羅尼経典が中世北インドで実際に使用されていたことを明らかにする。
第13章では、11世紀のナーランダー出土銘文によって、マニ車のインド起源説を提示する。
第14章では、ストゥーパの内外で見つかる大量のミニチュア・ストゥーパが仏教徒の墓であり、10世紀以降の東インドでこのような習慣があったことを、考古学史料やチベットの習慣、ヒンドゥー教の文献から裏づける。
碑文・考古学・美術・律文献が照らし出す、実像の断片が、ここにある。

著者紹介

グレゴリー・ショーペン (グレゴリーショーペン)

Schopen, Gregory
1947年、米国サウスダコタ生まれ。ブラックヒルズ州立大学(学士、アメリカ文学、アメリカ)に学び、マクスター大学(修士、宗教史、カナダ)を経て、オーストラリア国立大学(南アジア・仏教学)でドゥ・ヨング教授の許で学位を取得。博士論文のタイトルは“Bhaiṣajyaguru-sutra and the Buddhism of Gilgit”(「薬師経とギルギットの仏教」)。現在、カリフォルニア大学ロサンゼルス校アジアパシフィックセンター名誉教授。これまで、インディアナ大学ブルーミントン校(1984-91年)、テキサス大学オースティン校(1991-99年)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(1999-2012年)を経て、現在はブラウン大学宗教学部教授として教鞭をとっている。
主要業績:Bones, Stones, and Buddhist Monks (1997), Buddhist Monks and Business Matters (2004), Buddhist Nuns, Monks, and Other Worldly Matters (2014, 以上、University of Hawai'i Press), Indian Monastic Buddhism (Motilal Banarsidass, 2010),『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活〈新装版〉』(小谷信千代訳、春秋社、2018)など。

渡辺章悟 (ワタナベショウゴ)

東洋大学教授。東洋大学大学院博士課程満期退学。博士(文学)。主な業績:『金剛般若経の研究』(山喜房佛書林、2009年)、『般若経大全』(編著、春秋社、2015年)、『般若経の思想』(春秋社、2019年)ほか。

上田昇 (ウエダノボル)

1949年生。目白大学名誉教授。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学(印度哲学専攻)。博士(文学)。主な業績:『ディグナーガ、論理学とアポーハ論』(山喜房佛書林、2001年)、「「瓶の無」について」(『目白大学人文学研究』第18号、1-12、2022年)ほか。

加納和雄 (カノウカズオ)

1974年生。駒澤大学准教授。ハンブルグ大学アジアアフリカ研究科修了。文学博士。主な業績:Buddha-nature and Emptiness: rNgog Blo-ldan-shes-rab and a Transmission of the Ratnagotravibhāga from India to Tibet. (Vienna, 2016); 「中世のサンスクリット料理書」(『食から描くインド:近現代の社会変容とアイデンティティ』井坂理穂・山根聡編、春風社、2019年)ほか。

計良龍成 (ケイラリュウセイ)

法政大学教授。ローザンヌ大学博士課程修了。文学博士。主な業績:“Jñānagarbha: Two Truths Theory, Gradualism, and Mādhyamika Philosophy.” (William Edelglass, Pierre-Julien Harter and Sara McClintock eds., The Routledge Handbook of Indian Buddhist Philosophy. London and New York: Routledge, 2022); 「カマラシーラの中観思想」(高崎直道監修、桂紹隆・斎藤明・下田正弘・末木文美士編『シリーズ大乗仏教6 空と中観』春秋社、2012年)ほか。

崔珍景 (チェジンギョン)

独バイエルン州立科学アカデミー研究員。ミュンヘン大学博士課程修了(Dr. Phil.)。主な業績:“A Brief Survey on the Sanskrit Fragments of the Viniścayasaṃgrahaṇī.” (『インド論理学研究』第VIII号、2015年); “Three Sūtras in the Gilgit Dīrghāgama Manuscript: A Synoptic Critical Edition, Translation and Textual Analysis.” (Dr. Phil. Dissertation, Ludwig-Maximilians-Universität München, 2021) ほか。

松村淳子 (マツムラジュンコ)

1953年、静岡県静岡市生まれ。東京大学文学部卒、同大学院人文科学研究科修士課程修了。オーストラリア国立大学アジア学研究科修士課程修了。ドイツ・ゲッティンゲン大学インド学仏教学専攻博士課程修了(Ph.D.)。神戸国際大学教授、国際仏教大学大学院大学教授を経て、現在、東洋大学大学院非常勤講師。著書に、The Rasavāhinī of Vedeha Thera(東方出版、1992)、訳書に『増支部経典第四巻 原始仏典III』(服部育郎氏と共訳、東京:春秋社、2018)などがある。

米澤嘉康 (ヨネザワヨシヤス)

大正大学准教授。ライデン大学博士課程修了(Ph.D)。主な業績:『全注・全訳 般若心経事典』(すずき出版、2009年)、“Vigrahavyāvartanī: Sanskrit Transliteration and Tibetan Translation.”(『成田山仏教研究所紀要』31号、209-333、2008年)ほか。

目次

  謝辞および雑言
  略号一覧
  凡例
虚 像
 第1章 大乗とインド仏教中期——漢文資料という鏡を通して
 第2章 『金剛般若』の「その地点は塔廟となるであろう」という成句
       ——大乗の経巻崇拝についての覚え書き
 第3章 仏陀の遺骨と比丘の仕事
       ——初期大乗経典に見るストゥーパをめぐる論争と伝統教団の価値観
 第4章 比丘たちを経典に立ち戻らせる
       ——初期大乗仏教における崇拝儀礼と保守主義
 第5章 梵語大乗経典文献における一般化された宗教的目標としての極楽世界
 第6章 中期大乗文献における古代の瑜伽者による達成法の一般化
       ——宿命智についての覚書
断 片
 第7章 インドの碑文における大乗
 第8章 クシャーナ期阿弥陀像碑文とインド初期大乗の特質
 第9章 大乗経典を典拠として描かれたアジャンターの観自在像の曖昧さと
       その暫定的な比定——ウォルター・スピンクに宛てて
 第10章 ナーランダー出土10世紀碑文における『普賢行願讃』の1詩節
 第11章 「アバヤギリヤ出土の陀羅尼石」について
       ——セイロンの大乗仏教文献研究のための1資料
 第12章 インドの碑文中の『菩提心荘厳十万陀羅尼』(Bodhigarbhālaṅkāralakṣa)と
       『頂髷無垢陀羅尼』(Vimaloṣṇīṣa Dhāraṇī)
       ——中世インドにおける仏教の実践についての2篇の資料
 第13章 「祈禱の技術」についての覚書と
       11世紀のインド碑文における「輪転蔵」への言及
 第14章 ストゥーパとティールタ
       ——チベットの葬送慣習とインドの仏教遺跡における「聖人の傍らへ」の埋葬

  原註・訳註
  監訳者あとがき
  索引

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