書籍詳細
建築工芸アイシーオール
復刻版
建築工芸アイシーオール 第1期(全2冊)
- 発売日
- 2015/01/15
- 判型
- ISBN
- 978-4-336-05833-1
- ページ数
- -頁
定価 82,500円(本体価格75,000円)
内容紹介
【監修のことば】梅宮弘光(神戸大学教授)
本誌は,戦前期の建築・デザイン関係雑誌のなかでも,そのアヴァンギャルディズムにおいて尖端をなすもののひとつである。…と書けば,難解で取り澄ました印象を,あるいは尖鋭な政治性を期待されるむきがあるかもしれない。そうであれば,期待はずれと言うほかないのだが,しかし,そのような前衛イメージは一九二〇年代的なもの,三〇年代のアヴァンギャルディズムは,外見や理念よりも技術や論理の内実を追求するものに変わっていく。しかも現実的に,わかりやすく。この動向の先頭をすごい馬力で駆けていった男,それが川喜田煉七郎であった。
本誌は,その彼が独力で執筆・編集したもの。だから,あたかもこの博覧強記のモダニストの頭の中を覗き込む感がある。「アイシーオール」とは,物質世界のすべてであると同時に,ひとやモノの間にある見えない関係をも含んだ「オール」なのだ。見えるものに働きかけて,見えない関係をつくり変えていく,それこそがデザインであり,見えないものを見えるようにして共有する手法が,彼独特の図解であり解説であり,そして主唱する「構成教育」の精髄であった。その結果,誌面からは完成写真や大家の評論はすっかり追い出され,かわりに独自の図解や解説がてんこ盛りである。こうした本誌に横溢する一九三〇年代的モダニズムの姿は,今日の多様な領域の多様な観点から検討されることで,モダニズム研究の深化と新展開をもたらせるにちがいない。別冊資料篇では詳細な索引や年表など,検索の便宜となるデータ整備を心がけた。
【推薦のことば】
構成教育の普及に大きな役割を果たした重要資料
金子一夫(茨城大学教育学研究科教授・美術教育史)
モダニズム的な図画教育の試みは大正一〇年あたりから始まる。昭和に入ると「機械美」「構成」といった言葉が図画教育の論説にも出現する。大正中期に自由画運動を起こした山本鼎でさえ昭和に入ると「構成(コンストラクション)」の教育的価値を言い始める。このような時代の傾向に明確な形を与えたのが、川喜田煉七郎の構成教育運動であった。構成教育は川喜田がバウハウスの予備課程の教育を参考に作り上げた教育体系である。川喜田の編集する『アイシーオール』には、構成教育に関する論説や活動報告が初号から逐次掲載される。それによって構成教育概念の深化と普及の過程を跡づけることができる。『アイシーオール』は『学校美術』とともに構成教育の普及に大きな役割を果たした。なかでも、第三巻第八号(昭和八年八月)、第三巻第九号(同年九月)、第四巻第七号(昭和九年七月)は「構成教育号1.2.3.」、第五巻第四号(昭和十年四月)、同第六号(同年六月)は「児童画における構成教育1.2.」という特集号であった。特に後者には間所はるが横川小学校で指導した児童の構成作品が多数掲載され、構成教育の浸透を確認することができるのである。
このように、モダニズム期の構成教育を語る上で必須の資料が『アイシーオール』であり、復刻版の刊行が、美術教育史ひいては教育史全般の調査・研究に寄与することを期待する。
眼を見開く復刻!
橋爪紳也(大阪府立大学21世紀科学研究機構教授・都市論)
表紙に「目」がある。「顔」がある。
全国の店舗建築の近代化に奔走し、「構成教育」の普及に情熱を燃やした異能の建築家・川喜田煉七郎が、責任構成者として関与した雑誌『建築工芸アイシーオール』が、いよいよ復刻される。
川喜田は、店舗や建築の設計手法を判りやすく伝授するべく、「図解」という手法にこだわり、工夫を重ねた。雑誌に掲載された「図解」の頁を見ると、徹底して実践的かつ合理的に建築デザインに接した川喜田の確信に触れることができる。
「アイシーオール」とは、すなわち「I SEE ALL」。評論『Nature』で知られる超越主義の哲学者エマーソンの言葉、「I am nothing; I see all」を想起させる。森のなかで自然と一体となった時、人がただ、すべてを見るだけの存在になった様子をいう。
しかし川喜田が森を目指したとは思えない。逆に大都会のただなかにあって、民衆と一体となって、斬新な建築や合理的なデザインに、ただひたすら目を向け続けた人物であったと考える。
一九二〇年代後半、川喜田は「AS会-明日の建築を考える会」を結成、「「十万人野外映画館」「民衆映画館兼かげえ劇場」「浅草改造案」などの構想を発表している。
『建築工芸アイシーオール』は、川喜田が大胆に、かつ強い意志をもって、都市や建築と向き合ったこの時期に創刊されている。いくつかの号で表紙に掲載された「眼球」や「民衆の顔」の写真は、「都市という森」に対して見開いた彼の好奇のまなざしにほかならない。本誌を手にすれば、私たちの目も時空を超えて、その視界と一体となる。
著者紹介
梅宮弘光 (ウメミヤヒロミツ)