各界著名人による各界著名人による私が選ぶ国書刊行会の3冊

ポーランド語翻訳者芝田文乃

『象』(文学の冒険)

スワヴォーミル・ムロージェック 著 沼野充義/長谷見一雄/西成彦/吉上昭三 訳         

非英語圏のSF・奇想・不条理小説に飢えていた私にとって、中東欧や南米にも目配りの行き届いた《文学の冒険》シリーズは本当にありがたく、多大な影響を受けた。『象』はムロージェックのヘンテコ掌篇とヘタウマ漫画を収めたうれしい短篇集。なかでも「ウグプー鳥」は人間関係に疲れたときなど繰り返し読んだ。我が精神的避難所。

『ライロニア国物語 大人も子どもも楽しめる13のおとぎ話』

レシェク・コワコフスキ 著 沼野充義/芝田文乃 訳 土橋とし子 画           

『ライロニア国物語』は哲学者が書いた奇妙奇天烈な十三篇のおとぎ話。一部がポーランド語講座のテキストとして使われ、面白いので全篇訳してみたところ、《文学の冒険》の編集者氏のおかげで瀟洒な本に仕上がった。これが訳者として国書刊行会に関わった最初の一冊。土橋とし子の装画・挿画、坂川栄治の装丁・造本、最高です。

『虚数』(文学の冒険)

スタニスワフ・レム 著 長谷見一雄/沼野充義/西成彦 訳           

『虚数』は架空の本の序文集とAIによる講義録。駄洒落の翻訳に苦心の跡が偲ばれる。各篇ごとにフォントや組版を変えているのが心憎い。装丁・造本は前田英造(坂川事務所)。ここからのちの《スタニスワフ・レム・コレクション》につながってゆく。