各界著名人による各界著名人による私が選ぶ国書刊行会の3冊

詩人/作家小池昌代

『夜明け前のセレスティーノ』(文学の冒険)

レイナルド・アレナス 著 安藤哲行 訳               

『夜明け前のセレスティーノ』をどう語ったらいいか。濃緑の草がしゃべり出したような本だ。木の幹に詩を書くセレスティーノと、彼のいとこ「ぼく」。むきだしの生と死、暴力と抑圧。自由と抵抗の根っこには「詩」がある。叩きつけるリズムが日本語に乗り移った。

『夜の舞・解毒草』(新しいマヤの文学)

イサアク・エサウ・カリージョ・カン/アナ・パトリシア・マルティネス・フチン 著 吉田栄人 訳             

『夜の舞・解毒草』には共感覚を呼び起こされる。ユカタン・マヤ語で書かれた魔法の世界。人間の作った世界よりも自然界のほうが圧倒的に大きい。わたしたちの見る夢は、そこに生まれそこから流れてくるのだろう。

『ボウエン幻想短篇集』

エリザベス・ボウエン 著 太田良子 訳               

『ボウエン幻想短篇集』には、深淵な怖さが粒立っていた。幽霊を描いて幽霊のボディを作品が体現する。容赦のない眼差しや箴言に触れると、あっ、これがボウエンだとうれしくなる。巻末には、「序文」としてボウエン自身が書いた四つの文章があり、長編・短編・詩についての考えがわかる。