各界著名人による各界著名人による私が選ぶ国書刊行会の3冊

書評家杉江松恋

『黒魔団』(デニス・ホイートリー黒魔術小説傑作選1)

デニス・ホイートリー 著 平井呈一 訳

最初に買った国書刊行会の本は『黒魔団』で、オカルトに関心があった十代で読んだ。題名に魅かれ、悪魔に魂を売る決意で手に取ったら、真っ当な冒険小説でびっくりした。

『JR』

ウィリアム・ギャディス 著 木原善彦 訳               

最も苦労して、しかしおもしろく読んだのは、書評家になってから手に取った『JR』だ。とかく日本のエンタメ小説界は決まり事が多くて(……)そういう空気にどっぷり浸かっている人間にとっては、い、いいの、これ、と慄く小説だった。全九百ページ二段組、縦横無尽に視点が飛び回るので、自分が今いる場所を把握するだけで一苦労である。でも大好き。こういう小説を読むと脳が自由になった気持ちになる。

『さらば、シェヘラザード』(ドーキー・アーカイヴ)

ドナルド・E・ウェストレイク 著 矢口誠 訳 若島正・横山茂雄 監修           

最も本を手にして嬉しかったのは『さらば、シェヘラザード』で、なんで初期ウェストレイクでこの長篇だけ出なかったんだろうと思っていたのだが、読んで納得した。とんでもないメタフィクションで、小説を書く人の怨念が詰まったような一冊なのだ。売れなかった時期に会ったすべての人を呪うような小説。作家って、怖い。