各界著名人による各界著名人による私が選ぶ国書刊行会の3冊

翻訳家大野露井

『ヴァテック』(バベルの図書館23)

ベックフォード 著 私市保彦 訳               

デパートの新刊書店の棚に、どの本とも違う判型の『ヴァテック』を見つけたのは誕生日だった。折から刊行されていた《新編バベルの図書館》では、この残虐な王の物語の下巻にあたる〈挿話篇〉が割愛されていたので、これ幸いと自分に贈った。ちょうど急激に暑くなる頃で、それでくらくらしたのかもしれないが、四半世紀前の「新刊」との出会いに、不思議な夢のような巡り合わせを感じた。

『夢の操縦法』

エルヴェ・ド・サン=ドニ侯爵 著 立木鷹志 訳               

『夢の操縦法』を読んでから此の方、ますます現実を夢として読み解く習慣を身につけていたのだ。そういえばベックフォードもサン=ドニ侯爵も、教えてくれたのはシブサワさんだった。

《澁澤龍彦 泉鏡花セレクション》(全4巻)

泉鏡花 著 澁澤龍彦 編 山尾悠子 解説 小村雪岱 装丁           

それから何年かして、《澁澤龍彥 泉鏡花セレクション》が世に出た。まったくもって美しい本で、遠目には嬋娟(せんけん)とした袖珍本のようだが、近づくと瀟洒な洋書とも見え、手に持つとずっしり重る。つまり鏡花の書くものによく似ていた。いわば過去で作った未来の本である。それはシブサワさんが見た夢を、覗き見るような具合だった。