各界著名人による各界著名人による私が選ぶ国書刊行会の3冊

人形作家中川多理

『山尾悠子作品集成』

山尾悠子 著                 

初めて国書刊行会の名前を意識したのは、この本を手にした時でした。学生時代に少し無理をして購った美しい装幀のこの本は、私の大切な宝物となりました。のちに山尾作品を人形化する機会に恵まれ、思い焦がれた薔薇色の脚を制作しました。

『腐爛の華』(新装版)

ジョリス=カルル・ユイスマンス 著 田辺貞之助 訳         

全身腐爛、腫瘍から(……)という悲惨な姿で地獄の生涯を送った聖女リドヴィナの伝記。人類の苦悩を一身に背負い、次から次に現れインフレする業病の数々、リドヴィナのあまりの自己犠牲の姿に、つい最近完結した『鬼滅の刃』と『進撃の巨人』の事を思わず想起しました。少年少女の異常なまでの自己犠牲と引き換えに救われる物語を希求し溜飲を得る、古今東西変わらないこのサディステックな欲求はどこから来るのでしょう。

『ネクロフィリア』

ガブリエル・ヴィットコップ 著 野呂康/安井亜希子 訳             

リュシアン・Nという名の屍体愛好者の日記形式の黒い文学。眼窩が落ち窪み屍体の終焉に近づいた人間は、すべからく過去に愛した死者たちに似てくるという。人がオブジェになる瞬間。人形は屍体に喩えられる事が多く、そこに違和感と反発を覚えながらも、気になって時折読み返す一冊です。