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天台維摩経疏の研究

山口弘江 著

発売日 2017/02/24

判型 A5判   ISBN 978-4-336-06114-0

ページ数 444 頁   Cコード 3015

定価 13,200円 (本体価格12,000円)

【内容紹介】

 【索引は後日、本HPにアップいたします】

 天台智顗(538-597)の親撰に準じる価値を持つとされる天台維摩経疏。それは智顗の最晩年、のちに隋の煬帝となる晋王広(569-618)の依頼を受けて撰述された『維摩経玄疏』6巻と『維摩経文疏』28巻(最後の3巻は章安灌頂)からなる一書である。過去には散逸の危機にも見舞われた本疏には、単なる『維摩経』の註釈という枠を超えて天台教学における重要な教義が詳説されるほか、他の文献には見られない特色ある説が見られるため、近年学界の注目を集めている。本書はその天台維摩経疏の歴史・テキスト・思想を多角的に論じる試みである。
 第一部では、史的観点から天台維摩経疏を考察する。
 第一章では、インドから中国に至る維摩経受容史を概観し、智顗と『維摩経』との接点を探る。その上で、天台維摩経疏の成立に至るまでの経緯を近年の議論をふまえ論じる。
 第二章では、天台維摩経疏が今日にまで伝えられてきた経緯を、中国と日本に大別して明らかにする。とくに江戸時代に安楽律派が中心となり精力的になされたテキスト蒐集や版本の刊行および校訂などの活動に着目する。
 第二部は、第一部で明らかとなった流伝の問題をふまえ、思想研究にあたっての基盤を整えるべく、文献学的考察をおこなう。
 第一章では、現存テキストを可能な限り調査し、系統や所在を整理する。
 第二章では、智顗が理解した経文の特質を論じる。撰述当時より挿入されていた可能性が高い『文疏』の経文を『維摩経』の主要な古写本および入蔵テキストと比較・検討し、鳩摩羅什訳出時のテキストを復元する方法を探る。
 第三章では、荊渓湛然(711-782)が『文疏』の内容を変えることなく略述した『維摩経略疏』10巻の考察から、湛然の文章削略の手法を明らかにする。
 第三部と第四部では、思想的な問題を扱う。
 第三部では、経文解釈の中核となる教学を取り上げる。
 第一章では、先行して撰述された別行本の『三観義』との比較から、天台維摩経疏が推敲を重ねて成立したことを明らかにし、天台文献の中でも『文疏』だけに説かれる通相三観説の特徴を論じたほか、近年議論が相次いだ『法華文句』に説かれる四種釈の成立過程を『文疏』の解釈法から考察する。
 第二章では、『玄疏』の中心的解釈方法である五重玄義のうち、体・宗・用の三玄義に着目し、解釈の特徴や影響関係を検討する。三獣渡河や仏国因果、折伏摂受といったキーワードから、『維摩経』解釈にあたり諸経の教説を柔軟に取り込んだ智顗の釈風を明らかにする。
 第三章では、他師と比べて智顗に特徴的な語義解釈や分科、および「普集経」という智顗が『維摩経』の序経とする謎の経典に着目し、智顗の『維摩経』理解の特色を論じる。
 第四部では、天台維摩経疏に底流する智顗の思想を問うべく、より総合的な視点から考察する。
 第一章では、『維摩経』の解釈に『法華経』を用いる例を考察する。方等教である『維摩経』を『法華経』が開示されるための通過点として位置づける智顗の基本的な『維摩経』観を見いだし、『維摩経』という代表的大乗経典に依拠した仏教概論としての天台維摩経疏の性格を明らかにする。
 第二章では、智顗が仏道品第八までの註釈で区切りをつけたことの必然性を註釈内容から検討し、天台維摩経疏の複雑な成立過程の問題に思想的な観点を加える。
 天台維摩経疏をはじめて総合的に論じる本書は、天台学にとどまらず、智顗の生きた隋代仏教を研究する上でも必読の書であろう。

【著者紹介】

山口弘江 (ヤマグチヒロエ)

1974年、東京都生まれ。駒澤大学大学院修了。博士(仏教学)。
韓国金剛大学校仏教文化研究所HK教授を経て、現在は駒澤大学仏教学部講師。
専門は中国仏教、天台学。
著書に、『蔵外地論宗文献集成』『蔵外地論宗文献集成 続集』(共著、ソウル:CIR)、『新国訳大蔵経 続高僧伝 I』(共訳、大蔵出版)などがある。